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「パネルディスカッション」 JSSEC 利用部会・啓発事業部会・Re:inc

2017年3月9日
2022年8月29日

日本スマートフォンセキュリティ協会(JSSEC)は2017年2月8日、都内のベルサール神田において、「JSSEC セキュリティフォーラム 2017 スマートフォン/IoT、その先にあるICT社会のセキュリティについて考える」を開催しました。JSSECでは、これまで「スマートフォンのセキュリティ」をテーマに様々な活動を展開してきましたが、今回は「IoT」や「AI」「制御システム」など、スマートフォンから一歩踏み込んだシンポジウムを企画しました。利用部会および啓発事業部会と、小・中・高校生向けにネットの安全について啓蒙活動を行っている学生団体「Re:inc」(リンク)では、合同セッション第2部としてパネルディスカッションを開催。社会人と学生という立場から、「ITギャップ」について活発な議論を交わしました。
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「利便性」重視の大学生、「リスク」に目を向ける社会人
パネルディスカッションには、パネリストとして、JSSECからは「利用ガイドライン・ワーキンググループ」のリーダー・松下綾子氏(アルプスシステムインテグレーション株式会社)と、「事例研究ワーキンググループ」のリーダー・藤平武巳氏(NTTコミュニケーションズ株式会社)の2人が登壇。

さらに学生団体の「Re:inc」からは、代表の窪田大悟さん(中央大学4年)、副代表の石川果歩さん(慶應義塾大学3年)、メンバーの岩田裕介さん(慶應義塾大学1年)の3人のあわせて5人が参加しました。

モデレーターは、第1部に引き続き、利用部会長の後藤悦夫氏(株式会社ラック)と啓発事業部会長の小池勉氏(株式会社コンテンツブレイン)が担当しました。

議論は、第1部で紹介された「大学生・社会人のネット意識調査」の結果を踏まえ、意見交換からスタート。学生を代表して窪田さんは、「社会人も個人ではSNSを利用しているのに、仕事にはあまり使わないというのはなぜか」と疑問を示しました。

これに対して松下氏は、社会人は仕事でのコミュニケーションにおいて取引上の情報を漏らしてはならないなど、「様々なセキュリティリスクを背負っています」と回答。「便利だから」という理由だけで、コミュニケーションツールを安易に利用できず、立場によって利用できるツールが変化する社会人の実情を説明しました。

メールが標準の社会人、使い慣れず「不安」を感じる大学生
一方、大学生のアンケート結果が「ほぼ自分自身にも当てはまる」ことから「典型的な大学生」だという慶応大の石川さんは、「大学生は(電子メールより)SNSを使うことが多いので、メールや電話でのコミュニケーションに不安を感じる」と感想を述べ、アンケートからも明らかとなった大学生の「不安」に共感を示しました。

これに対し、藤平氏は、「メールアドレスさえわかっていれば、使っているシステムに関係なく通信できます。ところが、SNSではLINEやWhatsApp(アメリカで普及しているSNS)など、ツールが異なると通信できないことが多いのです」とSNSがプラットフォームに依存する点を強調。「メールはいわば『世界標準』に基づいたツール」であり、「業務ではメールの利用が不可欠になります」と答えました。

また松下氏は、メールのメリットとして「証跡管理」ができることと、「1対多」のコミュニケーションに適している点を挙げました。その一方、ツールの違いについて、「学生だからコレ、社会人だからコレということではなく、うまく融合できるポイントが見つかればいいと思います」とギャップを埋める方法を模索することへの期待を示しました。

公私を区別し、スマートフォンをいかに使うか
別の不安として、石川さんはSNSなどのコミュニケーションツールを利用することにあたって、「プライベートと仕事を分けられるのかどうか」を挙げました。同じく慶応大の岩田さんも「プライべ―トも仕事も一緒に使いたいと考えてしまう」と言います。「簡単、便利にこなしていきたいという気持ちと、そういう考えで社会人になっていいのかなという不安があります」と、正直な気持ちを吐露しました。

松下氏は、マナーやルールという観点から、公私の区別は必要であるという点を強調しました。すると岩田さんはLINEを例に、スマートフォン1台につき1アカウントという制約があるため、「もし公私の使い分けが1つのアカウントではできない場合、どう対応したらいいのか」と素朴な疑問をぶつけました。

これに対して松下氏は、解決策として会社が「会社のスマートフォン」を配っていると回答。そこで会場の社会人に会社のスマートフォンと個人のスマートフォンを使い分けているかを尋ねたところ、大部分の人が「使い分けている」と答えました。

さらに岩田さんは、会社からスマートフォンが支給された場合でも、「どこまでが私的利用なのか」を社会人になったばかりでは判断がつかない可能性があると続けます。「例えば、LINEを入れるのは私的利用なのか。Twitterを入れて会社についての発言をするのは私的利用なのか。そのあたりがわからない」と疑問を投げかけました。

それに対して藤平氏も「例えば、プライベートのスマートフォンに、会社の会議へ欠席するとの連絡がLINEで送信されてくることなどはよくあります」と社会人がスマートフォンを私的利用するシーンを挙げました。

「急な事情があってお休みする、遅れるというような連絡です。これは『業務利用』ですから、会社のスマートフォンで連絡すべきですが、会社のスマートフォンにはLINEが入っていない。そうなると、どこまで私的利用を認めるかの線引きが難しくなります」と社会人としても完全に公私をわけらない現状があることを説明しました。

こうしたケースでは、本来正式手続きとしては「会社に電話すること」になります。一方、相手の状況にかかわらず、確実に内容を伝える緊急連絡として、「LINE」などのSNSを選択することにも合理性があります。

大学生の柔軟性、ビジネス効率アップのヒントに
議論は、これから新社会人となる「デジタルネイティブ世代」の不安を解消していくためにどうすればいいかという点に移ります。

受け入れる側の社会人として松下氏は、SNSによるコミュニケーションの活発化は、社会全体が同時に直面している課題とし、目的別、世代別にコミュニケーションツールの活用効果を考えるなど、ICTの使いやすさを追求していくことが大切だと主張しました。

藤平氏は、ICTを活用したコミュニケーションは、社会人もいまだに不安に思っているという現状認識を示し、目的に応じて面会、電話、メールなど適切にツールを選択しなければならず、それについては「新入社員に限らず、全社員に教育していく必要がある」と語りました。

議論のまとめとしてモデレーターの後藤氏は、メールが公式な通信手段であるのは事実としても、迷惑メールに示されるように「決して安全なものとは言い切れない」と指摘。「会社も社会も変わっていかなくてはいけない」と述べました。

同じくモデレーターの小池氏は、SNSやチャットのシステムを社内のコミュニケーションツールに流用したものが、在宅ワークやテレワークの中で活用されている例を挙げました。

「大人社会から『いいからSNSではなくメールにしろよ』と押し付けるのではなく、若い社員の良さを受け入れることでビジネス効率が上がるということもある」と、スマートフォン世代の感覚を活かしていくことを提言しました。

その後、JSSEC会長の安田浩氏(東京電機大学長)が登壇。「デジタルネイティブ」、「スマホネイティブ」な若い社員と、そうした人材を受け入れる企業側でのギャップの解消のために、まずは「若い社員を受け入れてあげること」が重要であると指摘しました。安田氏によれば、若い社員が気付いたことや考えたことを、「まずは褒めてあげること」が大切とのことです。

次にその内容を今一度、ネットで調べてみるように指導すること。すると、多くの場合、「すでにどこかの企業や研究者などが発表していたり、同じようなアイデアを公表していたりすることが多い」(安田氏)のです。

若い社員の中には、そうした指導だけでも初めて自分で考えることの意味を知る人もいるといいます。企業においては、先輩社員や上司が若い人の考えたことを「ネットで広く知られていること」と突っぱねてしまわずに、まずは受け入れ、次に自分で考えることの意味を理解させ、そして、「お互いに歩み寄ることでコミュニケーションが生まれてくる」と安田氏は述べました。

またコミュニケーションの実際では、受けた情報をすぐに鵜呑みにせず、誰から来たものなのか、それが本物なのかと「一歩下がって考えてほしい」とし、送信前に「メールを送ることで相手に迷惑がかからないかをぜひ考えてほしい」と心得を示しました。

最後にJSSECの事務局長である西本逸郎氏(株式会社ラック)が、受け入れ側がセキュリティの啓発を行う上で「それをやったら何が起きるかという想像力の大切さ」を強調することの重要性に触れました。

就活中の大学生に向けては、判断基準は企業によって違うものの、SNSでの情報発信を企業が見ているということを指摘し、注意を喚起しました。最後に世代間にギャップがあろうとも、フィフティ・フィフティの関係で尊重する姿勢こそが大切だと述べ、セッションのまとめとしました。

【編集協力:Security NEXT 企画制作部】

2017年3月9日
2022年8月29日
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