別添 |
I. | ヒトゲノム・遺伝子解析研究における個人情報の取扱いの在り方及び研究の進展に対応した倫理指針の見直しについて |
○ | 個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)において、「政府は、個人情報の性質及び利用方法にかんがみ、個人の権利利益の一層の保護を図るため特にその適正な取扱いの厳格な実施を確保する必要がある個人情報について、保護のための格別の措置が講じられるよう必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする」(第6条)とされている。 |
○ | また、衆議院の個人情報の保護に関する特別委員会における個人情報保護法案への附帯決議として、「医療、金融・信用、情報通信等、国民から高いレベルでの個人情報の保護が求められている分野について、特に適正な取扱いの厳格な実施を確保する必要がある個人情報を保護するための個別法を早急に検討すること」とされており、さらに参議院の個人情報の保護に関する特別委員会における附帯決議として、「医療」については、「遺伝子治療等先端的医療技術の確立のため国民の協力が不可欠な分野についての研究・開発・利用を含む」ものとされ、それらの分野については個別法を早急に検討し、個別法の検討について個人情報保護法の全面施行時(平成17年4月1日)には少なくとも一定の具体的結論を得ることとされている。 |
○ | 「個人情報の保護に関する基本方針」(平成16年4月2日 閣議決定)においても、個人情報の性質や利用方法等から特に適正な取扱いの厳格な実施を確保する必要がある分野については、各省庁において、個人情報を保護するための格別の措置を各分野(医療、金融・信用、情報通信等)ごとに早急に検討し、法の全面施行までに、一定の結論を得るものとされている。 |
○ | 一方、個人情報保護法においては、安全管理措置、第三者提供の制限、本人の求めに応じた開示等、個人情報取扱事業者の義務等に関する各種の規定を設けているが、大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体又はそれらに属する者が学術研究の用に供する目的で個人情報を取り扱う場合等には、学問の自由を損なってはならないという憲法の趣旨を踏まえ、こうした各種規定が適用除外とされている(第50条第1項)。また、行政機関個人情報保護法や独立行政法人等個人情報保護法においては、その機関や事業の公的な性格等にかんがみ、国の行政機関や独立行政法人等(国立大学法人を含む)については、学術研究機関であっても一定の適用除外はあるが個人情報の保護が義務づけられている。 |
○ | ヒトゲノム・遺伝子解析研究により得られた個人遺伝情報は、提供者等の遺伝的素因を明らかにする可能性があり、その取扱いによっては、様々な倫理的、法的又は社会的問題を招くおそれがある。提供者等の人権を保障するためにも、個人遺伝情報を保護し、研究が適正に実施されることが重要である。 |
○ | 現行の「ヒトゲノム・遺伝子解析研究等に関する倫理指針」においても、人間の尊厳及び人権を尊重する観点から、個人情報の漏えいを防止するための厳格な匿名化を基本として、研究者等の守秘義務、個人情報管理者の設置等、個人情報の保護を図るための様々な規定が盛り込まれている。 | ||||
○ | さらに、今般、個人情報保護法等が成立したことを踏まえ、法律に規定されている個人情報保護に関する規定については、原則として指針の中に盛り込む必要がある。 | ||||
○ | このため、現行指針について、
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○ | また、指針の対象とする個人情報の範囲(データーベース化されていない個人情報や5,000件以下の個人情報も対象)、死者に関する個人情報の保護に関する安全管理措置等については、個人情報保護法に上乗せした措置を講ずるなどの対応を図る必要がある。 | ||||
○ | なお、同一法人内における連結可能匿名化情報について、本委員会としては、匿名化された情報及びその対応表を有する部門と当該部門から匿名化された情報のみ提供される部門が存在する場合に、前者の部門において厳格な安全管理措置を講じることなどの条件を設けた上で、後者の部門においては当該情報を個人情報に該当しないと整理することが研究の円滑な実施の観点から適当と考えた。しかるに、個人情報保護法、行政機関個人情報保護法及び独立行政法人等個人情報保護法の解釈との関係から、最終的には当該情報を個人情報に該当するものとして整理せざるを得なくなった。しかしながら、こうした整理により、委員の中から、研究の実施に支障を及ぼす可能性にも十分留意する必要がある。したがって、今後、同一法人内における連結可能匿名化情報の取扱いに関する問題点等について適宜フォローアップを行って実態を把握するとともに、必要に応じて研究の実施に支障を及ぼさないような適切な措置が検討されるべきものと考える。 |
(1) | 法制化に関する基本的な視点 | ||||||||||||||
○ | ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する個人情報の保護の必要性については、既に記述したとおりであり、提供者等の人権の尊重に関わる重要な問題であるという認識の下に、個人情報の保護に関する措置が講じられる必要がある。 | ||||||||||||||
○ | 一方で、ヒトゲノム・遺伝子解析研究は、生命科学及び保健医療科学の進歩に大きく貢献し、人類の健康や福祉の発展、新しい産業の育成等に重要な役割を果たそうとしており、こうした科学研究の推進は重要な課題である。 | ||||||||||||||
○ | したがって、ヒトゲノム・遺伝子解析研究における個人情報の保護に関する規定の法制化の問題については、個人情報が保護されるような枠組みを構築するということを基本的な前提とした上で、人類の利益に資する研究を推進するという点にも配慮しながら、検討を行う必要がある。 | ||||||||||||||
(2) | 個人情報保護に関する規定の法制化 | ||||||||||||||
○ | ヒトゲノム・遺伝子解析研究における個人情報の保護に関する規定の法制化については、
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○ | また、ヒトゲノム・遺伝子解析研究から得られる個人遺伝情報の示す内容は、現状では、多くの場合決定的に個人の特質を示す又は予測するものとは言えず、法制化を考えるに当たっては、国民の個人遺伝情報に対する理解と評価に基づくべきであるとの指摘にも十分留意する必要がある。 | ||||||||||||||
○ | 本委員会は、今般、(2)に述べられたとおり指針の見直しの提言を行った。これは、個人情報保護法が求める個人情報保護を十分に担保できるばかりでなく、死者に関わる情報の保護に関する安全管理措置やデーターベース化されていない個人情報、5,000件以下の個人情報への対応等の措置が講じられ、従来から規定されていたインフォームド・コンセント、研究者等の守秘義務、試料等又は個人遺伝情報の匿名化、個人情報管理者の設置等とともに、個人情報保護法に上乗せした保護を求める等、現行指針に比べてより厳しい内容を含むものである。 | ||||||||||||||
○ | この改正後の指針が遵守されることにより、個人遺伝情報等の個人情報保護の必要性という点を考慮したとしても、「個人情報の保護に関する基本方針」等で求められる個人情報を保護するための格別の措置が講じられているものと考えられる。 | ||||||||||||||
○ | これまで研究分野では、多くの指針が策定されてきているが、基本的には、これらは我が国において、研究の適正な実施の確保を図る上で有効な一手法と考えられる。しかしながら、指針は法的な罰則や強制力を有せず、国民の不安の解消にとって十分ではないと疑問を呈する指摘がある中で、研究者等に指針を遵守させ、個人情報保護についてより高い実効性をどう確保していくのかということが、法制化を議論するための重要なポイントである。 | ||||||||||||||
○ | このため、
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○ | さらに、こうした指針の遵守状況について、一定期間後に調査・評価を行うなどフォローアップを実施し、その結果に基づいて、必要に応じて法制化を含めた措置を講じることで、指針の実効性を一層確保するとともに、問題発生・事後処理型の対応ではなく、未然防止型の対応を講じることができるものと考えている。 | ||||||||||||||
○ | なお、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に限った個別法ではなく、他の領域や分野も含んだ包括的な法律(4つの研究指針を統括した研究一括法、医療分野も含んだ個人情報保護法の特別法、医療・医学研究や産業における利用も含めた個人遺伝情報の適正な取扱いの確保のための法律)もしくは基本法的な法律(生命倫理全般について基本的な原則等を示す生命倫理基本法)による個人遺伝情報の保護、又は保険や雇用等における個人遺伝情報等に基づく差別の禁止を定めた法等の策定を検討すべきではないかという指摘があった。しかし、これらの策定は、いずれも研究にとどまる問題でないことはもとより、人権の尊重、インフォームド・コンセント、個人情報の保護等規定すべき項目が多岐にわたること、領域や分野によっては規制の程度や態様も一様ではないと考えられること等から慎重かつ十分な検討を要すべきであり、拙速な対応は適当ではないことを理由に、中長期的な課題と位置づけられるべきものと考えられる。今後の国際的な動向なども見据え、適切な時期にこの課題に対する検討が開始されるよう望む。 | ||||||||||||||
○ | また、中長期的な課題として法制化を検討する際には、個人情報保護に関する規定を検討するばかりでなく、法律によって一層の促進が期待される研究環境の整備に関する規定についても併せて検討する必要がある。 | ||||||||||||||
○ | さらに、個人遺伝情報に基づく差別が生じないよう、そもそも差別をなくすような社会づくりが必要であり、国をあげて精力的に国民の理解の促進に取り組むべきであることを確認した。 | ||||||||||||||
(3) | 法制化に関する委員会の議論のまとめ | ||||||||||||||
○ | 本委員会としては、個人情報保護の視点からの現行指針の見直しを行うとともに、その実効性を確保するための各種の対策、改正後の指針の遵守状況のフォローアップ等を実施することで、個人情報を保護するための格別の措置が講じられるものと考え、現段階において、個人情報保護法の全面施行に際し、ヒトゲノム・遺伝子解析研究において別途個別法を創設するなど個人情報保護の観点から別途の法制化の必要性はうすいものと考える。なお、既述のように中長期的には法制化の課題も含めて検討する必要があることも忘れてはならない。 |
○ | 近年のこの分野における科学技術の進歩はめざましいものがあり、研究の進展を阻害しないためには、こうした科学技術の進歩等諸情勢の変化を踏まえた、適時に指針の適切な見直しが必要である。 | ||||||||||||||||
○ | 具体的には、現行指針が策定された当時と比べ、生活習慣病に関するSNP(一塩基多型)等の解析技術の進歩、一定の特徴を有する集団を対象とした追跡型研究の進展、国内における共同研究の進展等の状況の変化が認められるところである。 | ||||||||||||||||
○ | このため、今回の改正指針策定においては、(1)国内で複数機関が共同で研究を行う場合(いわゆる多施設共同研究)の執り得る倫理審査の手続の明確化、インフォームド・コンセントの手続、地域や集団を対象とした研究における透明性の確保のための説明と対話、海外の機関との共同研究における指針の運用のあり方等について、見直しを行うとともに、(2)個人遺伝情報の定義やプロテオーム情報の取扱いについて整理することとしたものである。 | ||||||||||||||||
○ | しかしながら、本委員会では、個人情報保護の視点からの指針の見直しに重点をおいて検討を実施したため、研究の進展等を踏まえた指針の見直しについては、今回、必ずしも十分に議論を行えなかった状況にあり、今後、以下の点を中心に検討することが必要である。
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<主査> | |||
黒木登志夫 | 岐阜大学学長 | ||
<委員> | |||
位田 隆一 | 京都大学大学院法学研究科教授 | ||
小幡 純子 | 上智大学大学院法学研究科教授 | ||
鎌谷 直之 | 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター所長 | ||
具嶋 弘 | (株)バイオフロンティアパートナーズ常勤顧問 | ||
辻 省次 | 東京大学大学院医学系研究科教授 | ||
富永 祐民 |
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豊島久真男 |
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南条 俊二 | (株)読売新聞東京本社論説副委員長 | ||
橋本 信也 | (社)日本医師会常任理事 | ||
福嶋 義光 | 信州大学医学部教授 | ||
堀部 政男 | 中央大学大学院法務研究科教授 |
<委員長> | |
垣添 忠生 | 国立がんセンター総長 |
<委員> | |
位田 隆一 | 京都大学大学院法学研究科教授 |
宇都木 伸 | 東海大学法科大学院教授 |
大山 永昭 | 東京工業大学教授 |
具嶋 弘 | (株)バイオフロンティアパートナーズ常勤顧問 |
栗山 昌子 | (財)エイズ予防財団理事 |
菅 弘之 | 国立循環器病センター研究所長 |
武田 隆男 | (社)日本病院会副会長 |
橋本 信也 | (社)日本医師会常任理事 |
廣橋 説雄 | 国立がんセンター研究所長 |
福嶋 義光 | 信州大学医学部教授 |
堀部 政男 | 中央大学法科大学院教授 |
柳川 洋 | 埼玉県立大学学長 |
吉倉 廣 | 国立感染症研究所名誉所員 |
<委員長> | |
位田 隆一 | 京都大学大学院法学研究科教授 |
<委員> | |
江口 至洋 | (株)三井情報開発常務取締役 |
小幡 純子 | 上智大学大学院法学研究科教授 |
勝又 義直 | 名古屋大学大学院医学系研究科教授 |
具嶋 弘 | (株)バイオフロンティアパートナーズ常勤顧問 |
佐々 義子 | くらしとバイオプラザ21主任研究員 |
高芝 利仁 | 弁護士 |
辻 省次 | 東京大学大学院医学系研究科教授 |
南条 俊二 | (株)読売新聞東京本社論説副委員長 |
福嶋 義光 | 信州大学医学部教授 |
藤原 靜雄 | 筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授 |
吉倉 廣 | 国立感染症研究所名誉所員 |